「私は制作行為はしているが、アートを作っているのではない。私は筆や絵具やキャンバスに働きかけて、アートを引き起こす作業をしている。まるで近代的な植民地のように、キャンバスをアーティストの理念の実現で埋め尽くすこととは違う。私は自己を磨き限定しつつ、世界と刺激的に関わり、アートが発生するよう願う」――
練磨された自己の身体を介して、描かざるものと描くもの、作らざるものと作るものが出会う時、作ること自体の出来事性、現場性の中で、まわりの空間が刺激され、見る者をも関わらせながら、ぶつかり合い、響き合う。
「もの派」運動の支柱として芸術を解体構築し、新たな地平を拓いた1970年代から、東洋的、オリエンタリズムというレッテルを峻拒して、独自の作品を生み出してきた半世紀におよぶ道のりの中で、絵筆とともにつねにペンを握り、書きつづけてきた李禹煥の文章を編む。