コロナ禍により、感染症対策をめぐる政治と専門家の関係がかつてないほど注目された。専門家(専門知)はいかなる思考と根拠のもとで政治に助言するのか。本書は、日本現代史を射程に、行政学の第一人者が考察する。1980年代の中曽根政権時代に「私的諮問機関」が濫設(らんせつ)された。法令に根拠をもたず要綱などで臨機応変に設置でき、政治権力にとっては使い勝手がよい。いまやそれは「有識者会議」「審議会」という言葉にかわり、第二次安倍政権以降、次々と設けられた。集団的自衛権を行使容認とする法体制を審議した安保法制懇談会をはじめ、教育再生実行会議、働き方改革実現会議、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議はその代表例である。政治・行政は、なぜ有識者(専門知)を取り込もうとするのか。期待するのは科学的助言か、政策を正当化するための世論動員か。政治と専門知のあり方について、占領期に遡り、GHQによる専門家の外部調達、吉田茂内閣で発足した経済安定本部、官庁エコノミストの活躍、旧財閥企業による原子力利用の調査研究をはじめとする原子力政策、池田勇人政権の国民所得倍増計画、財政学者・大内兵衛らによる社会保障制度審議会、「増税なき財政再建」を掲げた第二臨調での国鉄解体・分割民営化など「専門知の政治化」がパラレルに進行した1980年代から、介護保険、司法制度改革、学術会議会員任命拒否問題、新型コロナウイルス感染症対策といった最近の動向まで、特徴的なジャンルで考える。