夏井いつきの待望の第三句集。
著者の50代の作品に、コロナ禍に詠んだ26句を加えた珠玉の515句を収録。
鶴を抱くやうな余生をたのしまん (「あとがき」より)
『伊月集 龍』『伊月集 梟』に続く第三句集『伊月集 鶴』は、五十代の作品を中心にまとめたものだ。
三十年近く前、第八回俳壇賞をいただいた時、「統一感がない」という審査員の評言を心に刻み精進しようと思ったのだが、如何せん、我が好奇心は一方向を向いてくれず、統一感のない作品を作り続けてきた。
が、この歳になって、いまさら全方向全天候型の好奇心をなだめたところでどうなる? という開き直りも生まれてきた。ありとあらゆる多種多様な句を作りたいという思いを、敢えて封ずることもなかろうと。そんな理由から、二十句一組の作品をさまざまに構成する方法を思いついた。百色の色鉛筆の箱のような色とりどりの作品を楽しんでいただけたら幸いだ。
(……)五十代の句集を早くまとめねばと思っている間に、コロナ禍に突入し、時間が無為に過ぎた。余録「青き踏め」二十六句はその時期の作品。この艱難を共に生きるエールとして付け加えた。
五十代の作品をまとめてしまえば、我が好奇心はすでに次に向かって動き出す。ますます俳句が楽しくてたまらない六十代を、真剣に遊びつくす。そんな日々が始まっている。
(「あとがき」より)
【目次】
・鶴の章 〈鶴食うてよりことのはのおぼつかな〉
・お降りの章 〈お降りや壺に緋いろの鳥しづか〉
・暖かの章 〈暖かをまるめたやうな小石かな〉
・陽炎の章 〈心臓部らし陽炎のあのあたり〉
・時鳥の章 〈水に根のひろがる夜の時鳥〉
・百合の章 〈一本の百合のごとくに戦はぬ〉
・月の章 〈二つ目の月産み落としさうな月〉
・黄落の章 〈百年を旅して黄落の一本〉
・余録「青き踏め」
・あとがき 〈鶴を抱くやうな余生をたのしまん〉