この刹那と闇の時代に、百年を見渡す物語が、京の町角から現れた。
それは、身近な家族の物語であり、また「この先はどうなる」と引っ張られ、
若い世代もぐいぐい読める、食いつきのいい物語だ。
時は、たった今の令和の時代への渡り廊下のような一夜。
平成の終わりだけが告げられ、次の時代が令和となることはまだ分からないという平成29年、西暦2017年の12月だ。翌々年の5月には令和の世となる一歩前である。
場所は古都の没落した家、そこで始まった何気ない夜に、百年を見渡す物語が、思いがけず隠れていた。蔵の財産をすべて捨てるというユニークな直接行動をとる祖母が、ほんとうは日本人と日本社会の闇と格闘する日々を重ねてきた。それを29歳、みずからも苦しみのただ中に居る男子の手で明らかにする姿を、意識の流れと呼ぶべき手法も用いて劇的に、哀切に、そして平易に、語り尽くす。
深まる闇の時代を一体どうやったら生きられるのか。
胸に染み入るその答えがここにある。
百年を見渡す日本にしかない物語。