レーモン・クノー『文体練習』を手がけた名翻訳者/フランス文学者による、奇想の小説集。
パンデミック後の世界を描く傑作短篇から近未来ディストピア・フィクションまで、驚異とユーモアに満ち満ちた全16篇。
診察から帰ってきた鈴麗の声は弾んでいた。
「ミミタケなんだって。すごく珍しい、って感心してた」
「何、それ?」
「あのね、耳がキノコになるらしいよ。最初のあれ、真菌性のハナタケだったんだって。気がつかなくて申し訳なかったって頭を?いてたけど、それが耳に来てしまったんだって。それでね、ハナタケがミミタケになったら、もう間に合わないんだって」
「何が?」
「だからさあ、ミミタケになったときは、もう脳の中に菌糸が入り込んでるの。だから治らないんだよ」(「KINOCCO-19」より)