愛媛県宇和島市の一病院を舞台に、全国初の臓器売買事件が起こった。続いて明らかになった、病気腎移植。四国の小さな地方都市で相次いでクローズアップされた腎臓移植をめぐる問題は、医療関係者に大きな衝撃を与える一方で、日本の深刻なドナー不足の実情を浮き彫りにした。 地元テレビ局・テレビ愛媛ではドキュメンタリー番組「この国の医療のかたち 〜否定された腎移植〜」を制作、まず愛媛ローカルで放送された後、全国の系列局で順次放送され、反響を呼んだ。 本書は、その制作にあたった著者が、問題の深刻さ、複雑さ、また緊急に対策が求められる事態であることを痛感し、本にまとめたものである。放送同様、病気腎移植だけではなく、生体移植の実情、透析医療の課題、アメリカの最前線の取り組みなど、移植医療の全容を描く中から今回の問題を直視する。
(渦中の人物となった宇和島徳洲会病院の)万波誠医師がしぼり出すように訴えた言葉。 「ほんとにせっぱつまった状態だった。それをなんとかしようとするのが臨床じゃないのか」 そして、日本移植学会の幹部が厳しく非難した言葉。 「目の前の患者さえ喜んでいれば何が問題あるんだという考えは恐ろしい…」 病気腎移植をめぐるこの二つの主張の間に横たわる溝が、今回の問題の本質を映し出している。優先されるべきは「臨床」なのか、あるいは「制度」なのか。 (「はじめに」より)
本書では、放送時間の制約の中で描けなかったこと、また番組放送以降の動向も盛り込み、医者、研究者をはじめとする医療関係者はもとより、患者やその家族等、さまざまな現場の実態、生の声を報告する。それは図らずも、この国の医療のあり方を問かけるものとなっている。