人として生きる力が育まれる最も大切な就学前の時期、子どもたちが起きている時間の大半を過ごす場所が、たんなる「箱」であってはなりません。子どもたちが健やかに育つためには、保育者の姿勢と同じくらい、建物や園庭のあり方、そして地域とのつながりがとても大切です。 本書の編者である象設計集団は、保育園、幼稚園、こども園など、就学前の子どもたちの居場所を、日本各地で数多く手がけている建築設計事務所です。この仕事を通じて気づいたのは、施設ではなく「家」という考え方でした。都市の中にあっても、季節を感じながら自然とともに暮らせる「家」。手触り、足触り、見る、聴く、嗅ぐなど五感を刺激する「家」。驚きや不思議が体感できる「家」。そうした「家」をつくりだせる仕事に携わりたいと考えています。 私たちは子どもの居場所を設計・建築するにあたり、常に保育者の方々とともに子どもの心や行動をよく知り、保護者や地域の人びとにとってふさわしい「子どもの家」とはどんなものかを時間をかけて話し合うことを心がけています。そうやって生まれたのが、本書で紹介する11の保育園・幼稚園・こども園です。 まず1章では、象設計集団の「子どもの家」についての考え方を解説します。続く2章で、11の「子どもの家」の具体例を紹介します。最後の3章は、保育者・教育研究者の方々(和光保育園・磯部裕子氏、川和保育園・鈴木まひろ氏、寺田信太郎氏、久保健太氏)による「保育と空間」をめぐる座談会の記録です。象設計集団が関わった「子どもの家」が、どのような地域で、どのようにつくられ、どのように使われているのかを知っていただくことで、保育に空間が果たす役割の大切さを伝え、ひいては私たちが住んでいる街や世界が、今よりも住み心地がよくなればと願っています。(ぞうせっけいしゅうだん)