土佐藩執政、父・野中兼山(良継)の失脚後、4歳にして一族とともに幽囚の身となった婉。男子の係累が死に絶えた40年後、赦免が訪れ、自由となったものの、そこで見たのは、再び政争の中で滅びてゆく愛する男の姿であった……。無慙な政治の中を哀しくも勁く生きた女を描き、野間文芸賞、毎日出版文化賞を受賞した名作「婉という女」に、関連作「正妻」「日陰の姉妹」の2篇を付し、完本とする。
哀しくも勁く生きた女たち
土佐藩執政、父・野中兼山(良継)の失脚後、4歳にして一族とともに幽囚の身となった婉。男子の係累が死に絶えた40年後、赦免が訪れ、自由となったものの、そこで見たのは、再び政争の中で滅びてゆく愛する男の姿であった……。無慙な政治の中を哀しくも勁く生きた女を描き、野間文芸賞、毎日出版文化賞を受賞した名作「婉という女」に、関連作「正妻」「日陰の姉妹」の2篇を付し、完本とする。
高橋英夫
野中婉はその聡明さと気性の激しさによって、わが身の「一身二生」を覚った女性だった。そのことを覚って、そこから身を立て、何者かになってゆこうと心に念じた女性だった。大原富枝が野中婉を作品の女主人公に選んだのは、野中婉のそうした人生と思念のかたちに強く惹かれたからであったのは、明らかなことである。(略)志をもった女性によって書かれた、志ある女のすがたと心がここにはある。――<「解説」より>