吉祥天のような貌と、獰猛酷薄を併せ持つ祖母は、闇の高利貸しだった。陰気な癇癪持ちで、没落した家を背負わされた父は、発狂した。銀の匙を堅く銜えた塩壷を、執拗に打砕いていた叔父は、首を縊った。そして私は、所詮叛逆でしかないと知りつつ、私小説という名の悪事を生きようと思った。-反時代的毒虫が二十余年にわたり書き継いだ、生前の遺稿6篇。第6回三島由紀夫文学賞。芸術選奨文部大臣新人賞。