"紐育"という文字が似合う古めかしいバーに、鮮やかなドライ・マティーニをつくるトマというバーテンダーがいた。ミキシング・グラスをかっちりと冷やし、オリーブやビターを一切加えない紐育スタイルのカクテル。あの味が忘れられず、再び摩天楼にやってきた私。だが、そのバーにはもうトマの姿はなかった…。ジャーナリストとバーテンダーとの寡黙な交流を描いた表題作ほか、ジャズ、映画、カリブ海などを背景に、20種類のカクテルを通して人生を深く味わう掌篇小説。