ある雨降りの晩、海にむかって走る赤い路面電車の車中には、その街に住む売れない探偵小説作家の「私」が乗っていた。背後の席から酒臭い息とともに、男の呻き声が彼を襲う。「死ぬときはひとりぼっちだ!」その呻き声を聞いた同じ夜、私は、街の運河に浮かぶ動物園のライオンの檻のなかに死体を発見した。次々に住人を襲う謎の死と失踪。そして、男の残していった呻き声との関係は…。時は、1949年。南カリフォルニアのさびれた海辺の街、ヴェニス。崩壊寸前の海上公園と、朽ちかけたアパートに棲む人びとの、暗い過去と現在の狭間を縫うように、主人公の「私」と中年刑事が謎を追っていく。米国の作家に多大な影響を与えただけでなく、あのスピルバーグが「私のパパ」と呼んだブラッドベリが、十年ぶりに書き下したハードボイルド探偵小説。