いまなおアンチ・ミステリーの傑作とされる中井英夫の『虚無への供物』は、最初塔晶夫の名前で発表された。もしこの塔晶夫が実在していたとしたら?作品にとって作者とは何か。作者とは、光眩い天啓を受けとめようと差し出される、粗末な器にすぎないのではないか。『供物』を果てしなく変奏しつつ、この問いを問うメタ・ミステリー。