20世紀の多くの破壊行為と社会変動のあいだに、「トラウマ」という言葉は臨床医学の枠を超えてわれわれの日常にも溢れるようになった。
かつて「トラウマ」という言葉は身体的な意味で用いられており、日常会話では身体への殴打を、医学においては殴打による身体への病理的な影響を指していた。本書は,トラウマがなぜ心の傷を表わすものとして社会に浸透し、いかに欧米社会を混乱に陥れてきたのかを明らかにするものである。
19世紀後半の急激な産業化、福祉国家の成立、第一次世界大戦までに起こった外傷的出来事、そしてシェルショック、トラウマ神経症をはじめとする新たな病いの誕生と補償問題……。〈トラウマの時代〉に翻弄された欧米諸国や医学者たちの姿は、今日のわれわれにいくつものモデルを与えてくれるだろう。
戦争、災害、事故――。未曾有の外傷的出来事に襲われた後、われわれは何を作りなおし、何を語り継がなくてはならないのだろうか? トラウマ研究の決定版にして新たな端緒となる、学問分野を超越した重要文献。