漱石は『こころ』のなかに江戸と西欧、二つに分裂した倫理観の危機を刻み、川端は『雪国』で、混じり合う男女の性を「浸透力」と捉えた-。明治から昭和までの代表的文学者24人の作品から、「名作」に値する特異な要件を抽出し、近代精神が孕む諸問題を解き明かした傑作論考。独自の着眼と作品への懐深い洞察で、文学の本質を鮮やかに射抜く、吉本文学論の精髄である。