「その眼に射抜かれることもある。その眼に挫折することもある。それでもなお、お前は何者なんだ、と厳しく問いつめる眼に自分を開いておくこと。
見つめ、見つめられ、まなざしが交差する十字路が、ぼくのカメラのレンズに映っている。
そこに近づけるだろうか。
そのためには、どうしても置き去りにできないあの眼が問うものについて考え続けるしかない。自分が感じたあのおののきの意味を幾度も反芻すること。ボーダーランドをゆく旅で出会った忘れられない人びとの面影と、写真家にしかできない魂の対話を続けながら。」
--本書より
どうして見つめ返すのか。困難を生きる人びとの眼を――。アフリカ、アジア、東日本大震災後の福島へ。フォトジャーナリストが自らに問うルポルタージュ。
国境なき医師団との関わりから写真家として歩みはじめた著者は、世界各地の紛争や飢餓や児童労働、災害の現場を取材し、人びとが人権を奪われ、生きづらさを強いられる現代社会の「問題」を発見する。それは同時に、一人ひとり固有の名前とまなざしをもつ「人間」に出会う経験でもあった。
困難を生きる人びととわかりあえないことに苦悩しつつ、「共にいられる世界」を切実に求めて旅する著者の声は、分断の時代に私たちはどう生きるのかという道を指し示す。