小樽。丘の中腹に蔦のからまる洋館がある。その主、初老の英文学教授・鳴海冬吉は、痩身、頑固で浮世ばなれした性格だが、学生にも隣人にも不思議と愛される人物である。早春のある日、別れた妻のもとに残してきた娘の春子が突然訪れた。10年ぶりの再会だった。東京での生活に神経をすり減らしていた春子は、小樽の駅に降りたときから、故郷の町へ帰ってきたような安堵を感じていた。
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