この秋、没後90年を迎える歌人・若山牧水。その短歌は教科書にも取り上げられ、ひろく愛誦されている。
白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ
けふもまたこころの鉦をうち鳴しうち鳴しつつあくがれて行く
幾山河越えさりゆかば寂しさのはてなむ国ぞけふも旅ゆく
これらの名歌が生まれた背景には、小枝子という女性との痛切な恋があった。
早稲田大学の学生だった牧水が若き日をささげた恋人には、秘密があった。彼女は実はすでに人妻で、郷里に二人の子どもまでいたのである。
恋の絶頂から疑惑、別れまでの秀歌を、高校時代から牧水の短歌に共感し、影響を受けてきた人気歌人が味わいつくす、スリリングな評伝文学。