私の崩壊。
その過程をみなさんに目撃していただきたいと思う。
忘れの天才がしたためた、9年間の怒濤の「ど忘れ」記録。
何の役にも立ちません。by著者
人前でなくて本当によかった。自分一人で考え事をしている最中であった。耄(もう)碌(ろく)という次元を超えていると思った。背中に冷たい汗が流れた。「思い出す」という言葉を思い出せないということに、人格的な崩壊があった。(略)ああ、思い出すだ! と思い出したとき、安堵するより逆に恐くなった。そんな単純な言葉を忘れていたという事実に直面したからだ。もっと難解な言語だったらよかった。想起するとか、アウフヘーベンするとか、失念するとか、アプリオリな何かとか、そういうあれなら。――本文より